仕入旅よもやま話
仕入旅よもやま話トップへ その1へ その3へ
その2  不運を呼ぶタクシー

人には誰でも不運な思い出が1つや2つはあるのでしょうが、これは今となってはちょっと笑える、私の不運な1日のことです。

もう10年くらい前、私はインド北部のそれほど大きくない町での仕入を無事に終えて午後一番にネパールへ飛ぶ予定で、前日予約しておいたタクシーに乗り込みました。
運転手は50歳半ばくらいの大柄なおっちゃんで、車はいったい何年落ちかわからないボロボロのアンバサダーです。(なにしろ40年以上モデルチェンジ無しの車で、20年落ちぐらいはザラに走っています。)

あまりにも酷い車なので大丈夫かなあと思っていたら、なんと走り始めて5分も経たないうちに車はストップ。どうやらガス欠みたいです。
「5分待て!」の言葉を残しておっちゃんはトランクから石油缶を取り出して燃料を買いに行ってしまいました。
20分ほどしてやっと帰ってくると、私に向かって「ノープロブレム」と明るく言います。
しかしそれは、その後の不運のほんのプロローグにすぎませんでした。

今度は3分もしないうちにホーンが止まらなくなりました。
おっちゃんは運転そっちのけでクラクションバーを押したり引いたり、他のスイッチも触ったりしています。
それでも「パォーーー!」と鳴り続けていたのですが、ついにおっちゃんは車を停め、狂ったようにクラクションバーをガンガン叩いたのが良かったのか、ようやくホーンは鳴り止んでくれました。

再び出発です。しかし目の前に、よろよろとサイクルリキシャが現れました。それをどかそうとおっちゃんの手はクラクションバーに伸びます。「本当に鳴らす気か?」 私のつぶやきにホーンが答えるかの様に「パォーーーーーーーー!!」
今度は完全に壊れてしまったようで、クラクションバーをいくら叩いても止まりません。

結局最後は随分時間を掛けてホーン本体の配線を引き抜いてしまいました。
おっちゃんは私に向かって少し照れたように笑っていますが、こっちにはそんな余裕は有りません。だってホテルからまだ数Kmしか走っていませんから、空港まであと20Kmはありそうなんです。
「ジャルディ 、ジャルディ キージェ!(急いで!)」
「ティークハェー!(OK!)」

とにかく再び出発。おっちゃんはいつもの調子でホーンを鳴らそうとしますが、配線を抜いたので当然鳴りません。
インド人のホーン好きは有名で、やたらに鳴らしまくって自己主張をしているのですが、それが出来ないとかなりストレスがたまるみたいで、イライラしています。
そのうち窓から首を出してクラクション代わりに怒鳴りはじめました。
最初は明らかに言葉を大声で叫んでいたのが、だんだん意味不明になってきて最後には
「ガオーー!!ウガーー!!」
声だけではなく顔まで怪獣みたいになっています。怖いよう!

おっちゃんの叫び声の甲斐も有ってなのか、ようやく車は空港へ近づいてきました。あと少し。あれっ?ガタガタガター、今度はなんとパンクです!もう泣きそう。
おっちゃんは明るい声で「5分で直す。ノープロブレム。」

パンクしたタイヤを見るとゴムのはがれまくった、どうしようもないような物です。
交換タイヤを出して来ましたが、見れば違いは空気が入っているかどうかだけのいずれも劣らぬ骨董品。
そしてなんと今度はタイヤを固定しているナットが緩みません。
おっちゃんは必死の力を込めて緩めようとしますがさっぱりダメで、集まってきたヤジ馬も手伝っていますがナットは全然ビクともしません。
どんどん時間は過ぎていきます。これは自分で何とかしなければと、あたりを見回すと近くの家に1メートル強の鉄パイプが立てかけてあり、私がそれを借りてきてレンチを差し込み体重をかけると簡単にナットは回りました。ヤジ馬達は大喝采。でもこれくらいで褒められてもなあ。

やっとこさ空港に着いたので、急いで荷物と共に建物へ向かおうとしたら、背後からおっちゃんが私の腕を掴んできました。
「チップくれ。チップチップ!」
「チップだと?このバカタレが!ウガーー!!」
とうとう私まで怪獣みたいになってしまいました。

おっちゃんが掴んだ腕を振りきり、慌ててチェックインカウンターへ向かいます。
預け分の荷物23kg。3kgオーバーだが予定通り問題無し。チェックイン完了。
すぐに手荷物検査へ向かい、職員の指示通りカバンを開けたのですが、中に入っているピアス類がどっさり顔を出した途端、職員の表情がみるみる厳しくなっていきます。
「これは金だな?」
「いいえ、メタル合金です。」
「イヤ金だ。こっちは銀だ。」
「いいえ、これもメタル合金です。明細書を見せますよ。」
以前にもこんな事が何回か有ったので、すぐに出せるところに入れてあった明細書を手早く出します。大抵はこれを見せれば解決のはずなんですが・・・
「これが合金?明細書も信用出来ないなあ。」
まずいパターンです。正真正銘メタル合金で明細書も本物なのです。

「これは時間をかけて調べないとダメだ。明細書を発行した会社のことを調べる必要が有るから、商品とパスポートは証拠として私が預かる。今日の出発はあきらめろ。それとも私に何かできることはあるか?」
やっぱり!ワイロの要求です。
出発時刻が迫っている為、焦っている私の心を読んでの追い込み攻撃。

「電話はどこだ!、デリーの日本大使館に電話する。明らかに違法な行為だ!」
「違う、私は助けたいんだ。出発時刻になるぞ!どうする?」
横にいたもう1人の職員も言います。
「今は観光シーズンだから明日の便、キャンセル待ちでも無理だろうな。」
完全にカモにするつもりのようです。
「400ドルで手を打とう。それなら私が助けてやる。」
「そんなもの払う理由がない!」
「おい日本人、私はお前を助けてやると言っているんだぞ。」
「バスでネパールへ行く!チェックインの時に預けた荷物を返せ!」
「機体の中だ。もう出せない!」
「飛行機に乗れないなら全部返せ!」
「よし200ドルにしてやる。これ以上はだめだ!」
「絶対払わないぞ!」

その後、押し問答のすえ十数分後にようやく開放され、結局は飛行機に乗れました。
(実はほんの少しとはいえ、最後の土壇場でワイロを払った自分が情けない・・・)

でも最近ではこのようなトラブルは、政府の指導でかなり減っている事も付け加えておきます、といっても気は許せませんが。

それにしても・・・
もう2度と、不運を呼ぶガオーのおっちゃんのタクシーだけには乗らないぞ!

仕入旅よもやま話トップへ その1へ その3へ