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その3  インドの選挙はエネルギー爆発!

どこの国でも選挙は一種のお祭りなのでしょうが、インドの選挙は時にお祭りというよりも、
もっと何か凄いエネルギーを感じることがよくあります。
当選直後に支持者たちが、大きなトラックの荷台に満員で乗ってパレードをしたり爆竹を鳴らすくらいはまだしも、集団心理がエスカレートして大騒ぎしていることが時々あり、旅行者にとっては選挙中や選挙直後は都市部など、場所によっては要注意とおもいます。
今回はそんなインドの選挙中に私が経験したことです。

午前中にネパールからデリーについた私は、スーツケースやその他の荷物を抱えたまま空港から割に近くの古い付き合いの取引先を訪ね、一仕事終えてオートリキシャ(3輪バイクの後ろが客席になったもの)に乗って定宿に向けて走り出しました。
普通、デリー中心部のリキシャはメーター料金ではまず乗れませんが、ちょっと中心部から離れると旅行者慣れしていない運転手も多く、この時も郊外から乗ったのでメーター料金で合意し、気分良く中心部へ向かいました。

私がそのころ定宿にしていたところは地方から来たインド人のビジネスマン専門宿で、値段は安いわりに部屋が少し広めなのが気に入って3〜4年くらいはよく泊っていた宿でした。この辺りは外国人は全然といって良いくらい泊っていず、せいぜい外国人はネパール人ビジネスマンで、そのせいであまり観光客慣れしていない為、逆にどこの飯屋に入ってもボラれることも無いし、日用品などを買うにも安いので一時はここ専門でした。おまけにメインの取引先へも歩いて行ける距離だったので尚更だったのですが、ある事件がきっかけで無念ながら別のエリアの宿が現在の定宿に変わってしまいました。そのこともいずれ機会があれば書きたいと思います。

あの大通りを左に曲がればもうすぐ宿に着くと思った途端、その大通りから大量の人々が出てきました。どうやら選挙中のパレードらしいとすぐ解ったのですが、なんと私を載せたリキシャはその道一杯に広がった隊列の先頭めがけて突っ込んでいきます。
「止まれ!止まれ!」と私は大声で叫んだのですが、リキシャのお兄ちゃんは私が告げた行き先へ忠実に向かおうとします。パレードの先頭にいる切り込み隊長みたいな人相の悪い男を先頭に強面達が道をふさぎ、リキシャは止められました。あっという間に運転手は引きずり出され、強面達に詰め寄られます。
「この先が目的地だから行こうとしたんだ。」
と言ってるようですが、相手はパレードの邪魔をされたと思っているらしく、1人が運転手を殴りだしたとたんに集団心理の影響か、何人もの連中が運転手の兄ちゃんを殴ったり蹴ったりし始めました。
この国では、口げんかは町の中でよく見かけますが、意外と殴り合いの喧嘩は少なく、いざ殴り合いが始まったら徹底的にやりあうことを何度か見ていますので、これはやばい!運転手を助けないと、と思うと同時に運転手の次は私に暴力の矛先が向くというきわめて現実的な予感がしました。
仮に今のうちに私だけでも逃げようとしたところで合計40キロは有りそうな大切な商品の入った荷物を置いていく決断も出来ませんし、もしそうしたところで逃げ切れそうにとても思いません。こんなときに限って警察官の姿も見えません。

これしかない!と1つだけ方法がひらめいた私は慌ててリキシャから飛び降り、切り込み隊長みたいな男に近寄ってヒンドゥー教の相手を敬う儀式的な動作を素早くやってから、丁寧な合掌をしました。合掌の手の位置は高いほうが相手に敬意を表しますので、この際だからと自分の頭の高さまで上げておきました。これで敵意が無いことは伝わるはずです。そうしておいてから、
「この運転手はハリーヤナに近い郊外から私を載せてやってきたので都会のルールが多分わからないだけなんだ。」
事実、このあたりのリキシャの連中ならまずこんな命知らずなことはやらないでしょう。続けて言います。
「彼はただ私が告げた行き先に忠実に行こうとしただけだ。邪魔するつもりなんて彼も私も全然無い。どうか彼を許してやって欲しい。」
私の最初の合掌が効いたのでしょうか、隊長は大声で殴るのを止めるよう指示しました。とたんに連中は殴るのをやめましたが、運転手はすでにボロボロでしゃがみこんでいます。
ここからまだ宿までは500m以上は有りそうですが、これはもう歩くしかないと思い、荷物をリキシャから全部降ろしました。
その直後です。しゃがんでいた運転手が立ち上がったと思ったとたんに自分のリキシャに疾風のように飛び乗り、あっという間に走り出して逃げて行きました。
かわいそうなお兄ちゃん、都会でこんな目に遭って。彼のこの先の幸福を祈ります。
だって私、ここまでの料金まだ払ってないのに。

とにかく宿に行こうと荷物を担いで歩こうとしたら、切り込み隊長がおもむろに自分の胸につけている候補者のバッジをはずして私の胸につけてくれました。
「この先、あんたがパレードに逆行して歩いても、このバッジがあれば安心だ。」
どうやら最初の合掌が予想以上に効いてるみたいで、隊長さん上機嫌です。
お礼を言ってから歩き出した私の胸には、悪役顔の怖そうな候補者の写真のバッジが光ります。歩き出して解ったのですがずいぶん長いパレードの様で、こっちは逆行しているのにいつまでたってもパレードは終わりません。
支持者達は私のバッジを見て喜んだり話し掛けてきたりするのですが、こっちは大量の荷物のせいでフラフラで、いちいち相手していられないと思っていると、どうやらバッジの本人、つまり候補者がトラックの荷台に乗っているのが見えてきました。
支持者が私を指差して候補者に何か伝えています。候補者はうなずくと私に向かって手を振ります。
バッジの写真は悪役だったけど、本物はにっこり笑って感じがいい。
写真も日本の選挙写真みたいに笑顔にすればよいのに。などと思っていたら候補者は仲間に何か指示したのでしょう。一人の男が花で編んだ首飾りを持って来て私の首にかけました。それを見て、また周囲の連中は大騒ぎ。
その花輪が候補者の首に掛かっていた物か別の物なのかよく解らないのですが、とにかく候補者はそれを見届けると嬉しそうにまた手を振ります。
お礼代わりに、こっちも手を振らないといけないと思い、スーツケースを置いて手を振り返したら、喜んでもっと大きく振り返してきます。しかたないのでこっちも大きく手を振ります。そしたら次に候補者はトラックの荷台の上を飛び跳ねて手を振って返しました。こっちも荷物を全部下に置いてジャンプして手を振る。いい歳をした者が馬鹿みたいと思いながらも悪ノリして来てこっちもエスカレート。
そんなやりとりがトラックが離れていくまで続きました。
私、インドの選挙権、当然持ってないんですけどねえ。

ちなみに彼は当選したそうで、インドの山積みする問題をあの飛び跳ねる勢いでがんばって欲しいものです。

この時の怖い顔のバッジは、記念に今でも持っています。
「え、これって悪役俳優のバッジ?それとも指名手配関係とか?」
うちの家内に見せたらこう言いました。価値のわからん奴です。

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